5. 態度と説得
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1. 態度とはなにか
1-1. 態度の定義
社会心理学では主に、ある特定の対象または状況に対する行動の待機状態
態度とは、精神、身体の両側面における行動の準備状態を指し、これが特定の対象や状況への行動に直接的な影響を及ぼすと考えられている
1-2. 態度の3成分
態度の成分
対象への感情的反応
好き-嫌い
評価に関わる知識や信念、考え、記憶など
良い-悪い、賛成-反対、望ましい-望ましくない
外部からも観察可能な反応
接近-回避、受容-拒絶
態度は社会心理学において古い歴史を持つ研究トピック
ある人の態度を知れば、その人の将来の行動が予測できると考えられたため
しかし態度による行動の予測力は必ずしも高くない
1-3. 態度の機能
功利機能
接近すべき対象と回避すべき対象を教えてくれる
接近すべき対象=報酬や快などの利益を与えてくれる対象
回避すべき対象=バツや苦痛などの損失をもたらす対象
利益を最大化し、損失を最小化することができる
自我防衛機能
望ましくない現実から自我を守る
ネガティブな属性や衝動に気づかせないようにしたり、私達が大事にしている信念や願望に反する現実に目を向けさせないようにする機能
価値表出機能
自らが大事にしている価値観を表出するが、ふつう価値観を表出する場は、それを支持、強化してくれる集団
私達は、少なくとも部分的には自らの態度を表明するために集団に所属し、集団成員に態度を承認してもらうことによって、自己概念の妥当性を確認し、自尊感情を高める(→6. 自己概念と自尊感情) 知識機能
複雑に入り組んだ周辺世界に関する情報を整理、体制化することで、世界の理解を容易にしてくれるという知識機能もある
こうした機能があることで、私達が取り巻く多様で複雑な情報の中から何に注意を向け、何を記憶すべきかなどを知ることができる
しかし誘導的な機能は、私達の情報処理を効果的にしてくれる一方、しばしばバイアスのかかった認知を促進する 1-4. 認知的斉合性理論
様々な対象に抱く態度は比較的安定しているが、ときには態度が変容することがある
大きな引き金となるのが、態度要素間の矛盾
人は自らが持つ態度要素のなかに一貫性をもたせようとする性質があり、要素間の均衡を保ったり、協和を目指したりするために認知を変容させる
ある人(P)がある対象(X)に対して抱く態度は、本人と対象、およびその対象に関連する他者(O)の三者間の関係に依存すると考えられる
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関係性
情緒的関係(好き、嫌い)
ユニット関係(所有・非所有、所属・非所属など)
この三者の関係が均衡状態になれば安定するが、不均衡状態にある場合には、それを解消する方向に変化が生じるとされる
均衡状態: 三者それぞれの関係性を表す記号をかけ合わせたときにプラスになる状態
不均衡状態: マイナスになる状態
バランス理論は非常に単純な図式化によって、態度決定を説明している
人と対象との二者間関係でとらわれがちの態度に、第三者(O)の存在が関与する可能性を指摘した点でも興味深い
自分や自分を取り巻く環境についての認知(知識、意見、信念)の間に矛盾や食い違いがあったり、一方の認知が他方の認知から帰結しなかったりする場合、それらは認知的に不協和な関係にあると考える
不協和な関係は不快感情を生み出すため、不協和を低減させる方向に人を動機づける
ヘビースモーカーの例
不協和: 「タバコは健康を害する」 vs. 「自分は毎日数多くのタバコを吸っている」
行動の変容「禁煙する」
認知の変容「タバコが健康を害するというのは十分な科学的根拠に基づいた事実ではない」「ストレス解消のメリットが上回る」
ここで重要なのは、当人の主観において矛盾が解決されれば、たとえ客観的な事実としては問題が解決されていなくても、不協和は低減するということ
熱心な信者ほど、教祖や教団に対する信念はむしろ強固なものになり、布教活動が活発化するという不合理な行動が見られている
2. 説得的コミュニケーション
2-1. 精緻化見込みモデル
態度は、外部からの働きかけによって変容することもある
受け手の態度や行動を変えるため、言語的・非言語的コミュニケーション(→9. 対人行動)を通じて送り手が意図的に働きかける社会的行為 視聴者を特定の商品を好むように導いたり、購買行動へと誘導したりしようとする商品広告(コマーシャル)も説得に含まれる
説得を考える上で、よく参照されるモデル
精緻化とは、説得の受け手が、送り手から発せられた説得メッセージをどの程度よく考えるのかということであり、その程度がいくつかの条件によって変わることがモデル化されている このモデルでは説得へと至る過程に精緻化の度合いによる2つのルートが想定されている
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中心ルート
人々は説得メッセージの内容について注意深く、じっくりと考える
メッセージに含まれる議論の論理性や説得力に注目するとともに、取り上げられている事実や証拠にも目を向け、関連する経験や記憶があれば想起する
中心ルートではこのような精緻化によって説得が起きるか(態度や行動が変容するか)否かが決まる
したがって、広告の場合、その広告の中で紹介されている商品の特徴に関する説明に最も注意が割かれ、検討されることになる
周辺ルート
メッセージの内容とは関係がない表面的な特徴が注目される
メッセージがどれくらい長いとか、メッセージの送り手(広告モデルなど)が魅力的かどうかといった本質的ではない手がかりが注目される
いずれのルートをたどるかは説得の受け手にまつわる2つの要因によって規定される
説得メッセージに時間や労力を注ごうとする動機づけ
メッセージを処理する能力
態度変容が迫られる対象がその人と個人的な関わりが深いものである場合や、説得の受け手がもともと深く考えることが好きな人である場合(認知欲求が高い場合)には、受け手の動機づけは高くなる しかし動機づけが高くても、それだけで中心ルートを経由するわけではない
疲労や騒音などによって思考が妨害されたり、メッセージの内容が不明瞭だったり、事前の知識がなく、理解しづらかったりする場合などは、深く考えることを妨げられるために中心ルートは経由されない
中心ルートが経由されるのは、説得の受け手に動機づけと処理能力の両方がある場合(精緻化見込みがある場合という)に限られる
精緻化見込みがある場合、メッセージの質に応じて認知構造の変化が生じ、態度の変容が起こる
ただし、態度変容の方向は、説得の内容と同方向とは限らず、メッセージの送り手の意図とは逆方向の態度変容が生じることもある
しかし態度変容がどのような方向に生じようとも、中心ルートを取って生じた態度変容は持続的で、それを覆すのは容易ではない
また行動にも一貫性が見られる傾向がある
2-2. 説得の規程因
説得によって態度変容が生じるか否かは、誰が、どのような内容の説得を、誰を相手にするのかによって左右される
効果的な説得の要因
メッセージの要因
説得メッセージの内容は、説得過程において最も本質的な要因
強力な論拠が示されているなど、議論の質が高い説得メッセージは態度変容を引き起こしやすく、反対に論拠が弱いメッセージの説得効果は低い
ただし精緻化見込みモデルからも予測されるように、議論の質が高い説得メッセージが態度変容を引き起こすためには、そのメッセージを理解できるだけの能力が必要
同じメッセージが繰り返されることによって、次第に内容の理解が進むためだと考えられている
その他、メッセージの内容については説得をする側の立場だけを述べる一面呈示よりも、反対の立場にも言及する両面呈示が有効であることや、恐怖や不安を煽るような内容のメッセージを受け手に与える(恐怖アピール)ことで、それに対する対処行動を受け入れるよう仕向ける手法も、ある程度有効なことが示されている 送り手(メッセージの発信者)
説得メッセージの送り手がどのような人であるかは、本来、説得メッセージの内容とは関係がない
ところが現実には、同じ内容のメッセージでも、それが誰から伝えられるかによって、態度変容が起きるか否かが左右されることが明らかにされている
送り手がその説得メッセージに関する専門的な知識や技能を持っていると思われるか否かということ
学歴、職業、経験の度合い、話し方などが専門性の程度を決定する
送り手がどの程度、自分の知っていることを誠実に伝えようとしているか
送り手自身の利益のためではなく、説得メッセージの受け手のために説得をしていると思われる場合、態度変容の可能性は高まる
信憑性は必ずしも説得メッセージの質と連動しない
送り手の信憑性は、説得メッセージの周辺的な手がかりであるので、説得メッセージが中心ルートで処理されている場合(説得の内容が自分にとって重要なものである場合など)には、信憑性の影響は大きくない
時間が経過するにつれて、説得メッセージの発信源とメッセージの内容とが分離するためだと考えられている
発信源に関する記憶は、メッセージの内容についての記憶に比べ、忘却されやすく、結果として説得メッセージのみが独り歩きすることになる
受け手(メッセージの受信者)
受け手の要因で特に重要なのは、態度対象との関連性
精緻化見込みモデルでの中心ルート
態度対象がその人に対して重要であったり、関連が深いものである場合には、人のメッセージの内容を入念に吟味して身長に態度を決定しやすい
精緻化見込みモデルでの周辺ルート
態度対象が受け手にとってあまり重要でなければ、周辺手がかりを利用した態度へ尿が生じやすい
あまり考えなくてもよい課題より、かなり頭を使う困難な課題のほうが好きだったり、新しい考え方を学ぶことが好きだったりする人は認知欲求が高いと考えられる
認知欲求の高い人は中心ルートを経由する傾向があるのに対し、認知欲求の低い人は周辺ルートを経由しやすい
ポジティブな感情状態にある受け手は簡便で直感的な情報処理方略を選択肢、ネガティブな感情状態にある受け手はより綿密で分析的な情報処理方略をとりやすいため、ポジティブムードの受け手は周辺ルートを辿りやすく、ネガティブムードの受け手は中心ルートを辿りやすいことが明らかにされている(Schwarz, Bless, & Bohner, 1991) 2-3. 説得の技法
自らの経験に基づいて独自の説得技法を開発している世界(セールスマン、募金、広告主など)に参与観察し、6つの原理を導き出した これらはいずれも精緻化見込みモデルにおける周辺手がかりととらえることができ、精緻化見込みが少ない場合に強い影響力を発揮する
好意を持った人からの説得を受け入れやすい
広告に身体的魅力の高い人が登場し消費を勧めることで、商品自体に対しても好意的な態度が持たれやすくなる
権威者や専門家の説得を受け入れやすい
本物の専門家でなくとも、白衣を着るなどして、専門家らしく見せるだけでも効果があると言われている
他者の行動を基準にして、自分の行動の正しさや的確さを判断する傾向がある
そのために、多くの人が買っているとか、誰もが使っているといった広告は消費者に対して訴求力を持つ
人は希少性の高いものに魅力を感じやすい
私達は、人に何か良いことをしてもらったら、それに対してお返しをしなくてはならないと思いやすい
試供品や試食は、消費者にある種の恩を売ることで、購買行動を引き起こそうとするもの
いったん何らかの決断をして、それを他者に表明したり、実際に行動に移したりすると、それと一貫した行動をとらなければならないと思うようになる
2-4. 態度変容への抵抗
態度はどちらかといえば安定的であり、容易に変化するものではないことも知られている
態度の頑健性に関係する現象
1つは抑止力があることを示唆する結果を示しており、死刑制度を導入していた州では殺人事件の発生率が減少していることを報告していた
もう1つは死刑制度を導入している州で殺人事件の発生率が明らかに高いことを示していた
相矛盾する2つの研究に対し実験参加者は、自分の立場を支持する研究についてはより厳密に行われていると評価したのに対し、自分の立場に反する研究は研究のやり方に問題があるとして批判した
2つの研究結果を読んだ実験参加者は、いずれの立場の者も自分の態度により強い確信を持つようになり、両者の態度の違いはさらに明確となった
人はまた自分の態度を自由に決定したいという動機を持っている
例えば、高圧的なことばや行動で態度変容を迫られると、態度を選択する自由が脅かされたと感じられるため、自由の回復を目指して態度変容への抵抗はかえって増すことになる
そして時には説得者の意図した方向とは正反対の態度へと変わるブーメラン効果が生じることもある 社会心理学では、伝統的に態度対象に関して意識的に表明される評価を調べてきた
質問しなどの自己報告尺度で測定することができる態度
意識的にアクセスすることができない態度
しかし、顕在態度と潜在態度に関しては、同一個人が持つ態度であっても必ずしも一貫しない
特に偏見など、社会的な望ましさが関係する態度には、表面的には平等主義的な態度を持っているように見えても、潜在態度においては、強い偏見を維持していることもある
潜在態度は、それを抑制しようとする十分な動機づけや認知能力があるときには表出されないが、これらのいずれかもしくは両者が欠如したときには、思いがけず表出してしまうことがある
3. 態度と行動の一貫性
態度は、私達が期待するほどには行動を予測しないことが度々報告されている
ラピエールは1930年から2年かけて、中国人の夫妻とともに、アメリカ国内を旅行した
当時のアメリカには東洋人への偏見や差別がはびこっていたが、彼らが訪れた251ヶ所のホテルやレストランなどのうち、サービスを断られたのは1ヶ所だけだったという
しかし、このような事実にも関わらず、6ヶ月後にそれらの施設に手紙を送り、中国人にサービスをするかどうかを尋ねたところ、返事があった128ヶ所の施設の内、92%が「断る」という回答だった
つまり、現実の行動と調査に応じて表明された態度がまるで一貫していなかった
このラピエールの研究は、まだ研究手法が確立していない時代の研究で、方法論的な問題も指摘されている
しかしその後40年経って、それまでに報告された42の実証論文をレビューした研究でも、態度と行動の一貫性は低かった($ r\fallingdotseq .15; Wicker, 1969) 態度と行動が一貫しない理由には様々なものが考えられる
ネガティブな態度であれば、それを行動に移すことは社会的規範に背くことになるかもしれない
また、私達の抱く態度は多くの場合、漠然としたものであるため、特定の状況下で求められる行為には必ずしも対応しない
私達がある対象に対して抱く態度がしばしば両面価値的だということもある
意図を規定するもの
態度
主観的な規範: 他者がその行動を容認するだろうという知覚
統制感: その行動が自分でコントロールできるという知覚
すなわち、行動を予測するには態度を知るだけでは不十分